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福島地方裁判所 昭和57年(ワ)392号 判決 1984年6月27日

事件

原告

株式会社オリエントファイナンス

右代表者

阿部喜夫

右代理人支配人

野呂信男

被告

宗田勝雄

右訴訟代理人

堀切真一郎

吉川幸雄

主文

二本松簡易裁判所昭和五七年(ロ)第一六四号仮執行宣言付支払命令を取り消す。

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  原告代理人は「二本松簡易裁判所昭和五七年(ロ)第一六四号仮執行宣言付支払命令を認可する。異議後の訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

1  原告は、昭和五四年五月九日被告との間において、次の内容の契約(以下「本件立替払契約」という)を締結した。

(一)  被告が三和プレシーザ株式会社(以下「三和プレシーザ」という)から同日購入した自動販売機一台(以下「本件機械」という)の代金四八万円は原告が立替払し、被告は原告に対し、右立替金を昭和五四年六月から昭和五六年一月まで毎月二七日限り金二万四〇〇〇円宛割賦償還する。

(二)  遅延損害金の割合は日歩八銭とする。

2  そこで、原告は、昭和五四年六月一一日三和プレシーザに対し右代金を立替払した。

3  これに対し、被告は、金一二万円を支払つたがその余の金三六万円を支払わない。

よつて、原告は被告に対し、右立替金残金三六万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である昭和五六年一月二八日から支払ずみまで日歩八銭の割合による約定遅延損害金の支払を求める。

二  被告代理人は、主文と同旨の判決を求め、請求の原因に対する認否として次のとおり述べた。

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実も認める。

三  被告代理人は、抗弁として次のとおり述べた。

1(一)  被告は、昭和五四年七月三和プレシーザに対し、本件機械を一週間以内に引き渡すよう催告した。

(二)  しかるに、三和プレシーザは、右催告期間経過後も本件機械の引渡をしなかつた。

(三)  そこで、被告は、昭和五六年一月三和プレシーザに対し、口頭により、被告と三和プレシーザとの間の本件機械売買契約を解除する意思表示をした。

(四)  重ねて被告は、三和プレシーザに対し、昭和五七年八月五日到達の内容証明郵便により、右売買契約を解除する意思表示をした。

(五)  被告と三和プレシーザとの間の本件機械売買契約と、原告と被告との間の本件立替払契約とは、密接不可分の関係にあるから、本件機械売買契約の解除によつて被告の三和プレシーザに対する売買代金支払債務が消滅すると共に、被告の原告に対する立替金支払債務も消滅するものと解すべきである。

2(一)  原告は、本件立替払契約締結にあたり、被告に対し、原告自身が本件機械を被告に引き渡すことを約した。

(二)  したがつて、原告の被告に対する本件機械引渡債務と被告の原告に対する立替金支払債務とは同時履行の関係にあるものである。

(三)  そこで、被告は、本件機械の引渡があるまで、本件立替金の支払を拒絶する。

3(一)  三和プレシーザは原告の代理店であつて、本件についてばかりでなく、本件以外についても原告のために継続的に立替払契約の代理行為を行なつていた。

原告は、三和プレシーザから継続的に顧客を紹介され、立替払契約をすることにより利益を得ていたものであつて、原告と三和プレシーザとは、平素から経済的に密接な関係にあつた。

(二)  本件立替払契約には、原告が三和プレシーザに本件機械の売買代金を立替払することにより、本件機械の所有権は、右立替払債権の担保のため、原告に移転する旨の約定があるところ、原告は、三和プレシーザに売買代金を支払つたことにより、右約定に基づき、本件機械の所有権を取得した。

(三)  原告が三和プレシーザの債務不履行を不問にし、かつ、本件機械の所有権を取得しながらこれを引き渡さず、被告に立替金の支払を請求するのは、信義則に反する。

四  原告代理人は「抗弁事実はすべて争う。」と述べた。

五  原告代理人は、再抗弁として次のとおり述べた。

1  本件立替払契約には、本件機械の瑕疵、故障については、一切被告と三和プレシーザとの間で処理し、被告は、これを理由として原告に対する立替金の支払を怠ることはない旨の約定がある。

2  したがつて、仮に三和プレシーザが被告に対し本件機械の引渡をしなかつたとしても、被告は、これをもつて原告に対する立替金不払の事由とはなしえないものである。

六  被告代理人は、再抗弁に対する認否として次のとおり述べた。

1  再抗弁1の事実は認める。

2  しかしながら、右約定は、引渡がなされた本件機械に瑕疵、故障があつても、これを理由に立替金不払の事由とはなしえないとするものであつて、本件機械の引渡があつたことを前提とするものであり、本件機械の引渡が未だなされていない本件には、その適用がないものである。

のみならず、本件物件の瑕疵担保責任を原告に主張しえない旨を特に約した右約定の趣旨からみれば、右約定は、瑕疵よりもさらに重大な事由である本件機械不引渡の場合には、被告は立替金の支払を拒絶しうる旨を約したものと解すべきである。

七  証拠<省略>

理由

一請求の原因事実は、当事者間に争がない。

二そこで、抗弁事実について判断する。

1  <証拠>を綜合すれば、次の事実が認められる。

(一)  信販会社である原告と自動販売機等の販売会社である三和プレシーザとは、業務提携に関する基本契約に基づき、平素から、次の内容の継続的取引を行なつていた。

(1) 三和プレシーザが顧客に対して商品を割賦販売するときは、三和プレシーザは、顧客との間において、即時払による代金額に所定の手数料等を加算した割賦販売価額を代金額とする売買契約を締結する。

(2) 三和プレシーザは、これと同時に、原告と顧客との間の立替払契約すなわち顧客が原告に対し右商品の代金の立替払を依頼し、原告が三和プレシーザに対し右代金額を支払つたときは顧客は原告に対し右割賦販売価額を割賦弁済する旨の契約の締結を媒介する。

(3) 原告は、原告と顧客との間の立替払契約が成立したときは、三和プレシーザに対し右商品の代金額を支払う。

(二)  三和プレシーザは、昭和五四年五月九日被告との間において、本件機械を目的として割賦販売の方法による売買契約を締結し、これと同時に、プレシーザ販売契約書と題し、顧客が原告に対して売買代金の立替払を依頼し、原告が立替払をしたときは顧客は原告に対しこれを割賦弁済する旨の不動文字による記載のある三和プレシーザ備付の書面に、被告の署名及び捺印を得て、その後これを原告に交付した。

(三)  ところが、三和プレシーザは、右売買契約締結後現在に至るまで、被告の再三にわたる催告にもかかわらず、被告に対する本件機械の引渡をしない。

2(一)  もつとも、右認定事実のうち、三和プレシーザから被告に対する本件機械不引渡の点については、証人照井逸郎の供述中には、三和プレシーザは富士電化に対し本件機械の被告方への運搬及び設置を委託した旨の部分がある。

しかしながら、右供述は、富士電化が被告にこれを引き渡したことまでも含むものではないから、右供述は、被告に対する本件機械の引渡がなかつたとする右認定の妨げとなるものではない。

(二)  そして、他に右認定に反する証拠はない。

3  右認定事実に基づき、被告の信義則違反の主張について判断する。

(一)  右のとおり、三和プレシーザに対し顧客から代金割賦払の方法による商品の購入申込があつたときは、原告と三和プレシーザとの基本契約に基づき、三和プレシーザは、右顧客を原告に紹介して原告と顧客との間に立替払契約を締結させることにより、原告から代金の即時支払を受け、あたかも三和プレシーザと顧客との間に代金即時払の売買契約を締結したのと同様の利益を受け、一方原告は、三和プレシーザから顧客の紹介を受けてこれとの間に立替払契約を締結することにより、他人間の売買契約に便乗して手数料等名下に利益を受けることができるものであつて、原告と三和プレシーザとは、三和プレシーザと顧客との間の商品割賦販売契約によつて、平素から相互に利益を享受し合う関係にあつたものというべきである。

(二)  他方、代金割賦払の方法により本件機械の購入を希望する被告にとつては、被告と三和プレシーザとの間において代金割賦払の方法による売買契約が成立しさえすればその目的は達成されるものであつて、あえて原告からその立替払を受ける必要性は乏しいものである。

(三)  してみると、本件立替払契約は、主として本件機械の売主である三和プレシーザとその提携者である原告とが利益を享受し合うことを目的として締結されたものであり、被告にとつてみれば、本件立替金の支払は、三和プレシーザに対する本件機械の割賦販売代金の支払をなすのと実質上は何ら異なるところはなく、経済的には、原告と三和プレシーザとは本件機械の売買契約について一体として売主側に立つものと評価しうるものというべきである。

(四)  したがつて、原告と被告との間の本件立替払契約は、形式上は三和プレシーザと被告との間の本件機械売買契約とは別個の契約ではあつても、右取引の実態すなわち本件立替払契約は本件機械売買契約を前提とするものであり本件立替払契約のみが独立して締結されることはありえないものであること、原告と三和プレシーザとは平素から提携し三和プレシーザと顧客との間の商品割賦販売契約により利益を享受し合つており経済的には両者は一体として売主側の当事者と評価しうること等の実態にかんがみれば、三和プレシーザが被告に対して本件機械の引渡を履行しないにもかかわらず、これと提携して売主側と評価される原告が、実質上は本件機械の割賦販売代金と同視しうべき本件立替金の支払を求めることは、信義に反し許されないものと解するのが相当である。

(五)  右により、信義則違反を理由とする被告の抗弁は、理由がある。

4(一)  これに対し、原告は、本件立替払契約には、本件機械の瑕疵、故障については、一切被告と三和プレシーザとの間で処理し、これを理由として原告に対する立替金の支払を怠ることはない旨の約定があるから、被告は、本件機械の引渡がなされなかつたことをもつて、原告に対する立替金不払の事由とはなしえない、と主張し、前示甲一号証によれば、原告と被告との間において、右の趣旨の約定がなされたことが認められる。

(二)  しかしながら、右約定の趣旨は、被告に対して引渡がなされた本件機械に瑕疵があつた場合にこれをもつて本件立替金不払の事由とはなしえない旨を定めたものであり、本件機械の引渡がなされない場合を想定したものでないことは、右甲一号証の約定文言上明らかであるから、この点についての原告の主張は、採用することができない。

三以上のとおり、原告の申立に基づく二本松簡易裁判所昭和五七年(ロ)第一六四号仮執行宣言付支払命令は、異議後の被告の抗弁により不相当とされるに至つたからこれを取り消し、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (山口周)

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